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名古屋高等裁判所 昭和33年(ネ)29号 判決

控訴人 被告(附帯被控訴人) 宮川節二

訴訟代理人 田中一男

被控訴人 原告(附帯控訴人) 国際物産交易株式会社

訴訟代理人 毛利与一 外一名

主文

原判決を左の通り変更する。

名古屋地方裁判所昭和二十八年(ケ)第七四号競売事件について同裁判所が昭和三十年六月十四日作成した配当表中配当順位欄二の

「元金五六四六、一〇七-利息九七〇、九一九-計金六六一七、〇二六-配当額六四〇九、九〇五-弁済不足二〇七、一二一-債権者氏名宮川節二」

とある部分を取消し

「元金五一六三、二〇二-利息五三六、一一二-計五六九九、三一四-配当額三八三四、三五二-弁済不足額一八六四、九六二-債権者氏名宮川節二」

と変更し

その次に配当順位三の欄を設け

「配当順位の理由三番抵当権元金三、〇〇〇、〇〇〇-計三、〇〇〇、〇〇〇-配当額二五七五、五五三-弁済不足四二四、四四七-債権者氏名国際物産交易株式会社」なる一行を追加して配当を実施する。

被控訴人の其の余の請求は之を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じ(差戻前の控訴費用を除く。)之を八分しその七を控訴人、その一を被控訴人の負担とし差戻前の控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一、控訴代理人は「原判決中控訴人勝訴の部分を除きその余を取消す。被控訴人の請求は之を棄却する。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。」との判決を求め、附帯控訴につき附帯控訴棄却の判決を求めた。被控訴代理人は「本件控訴は之を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求め、附帯控訴の趣旨として「原判決中被控訴人(附帯控訴人)敗訴の部分を取消す。原判決主文第一項を

名古屋地方裁判所昭和二十八年(ケ)第七四号不動産競売事件について昭和三十年六月十四日同裁判所が作成した配当表中配当順位欄二の「元金五、六四六、一〇七-利息九七〇、九一九-計六、六一七、〇二六-配当額六、四〇九、九〇五-弁済不足二〇七、一二一-債権者氏名宮川節二」とある部分を取消し之を

「元金二、八三三、九九五-利息三七、四五二-計二、八七一、四四七-配当額二、八七一、四四七-債権者氏名宮川節二」と変更しその次に配当順位三の欄を設け「配当順位の理由三番抵当権元金三、〇〇〇、〇〇〇-計三、〇〇〇、〇〇〇-配当額二、六九二、五一七-弁済不足額三〇七、四八三-債権者氏名国際物産交易株式会社」なる一行を追加して配当を実施する。」

と変更する。訴訟費用は第一、二審共控訴人(附帯被控訴人)の負担とする。」との判決を求めた。

二、当事者双方の事実上の主張、書証の提出認否は左記に附加又は訂正する外原判決事実摘示と同一であるからここに之を引用する。

(イ)  被控訴人(附帯控訴人、以下単に被控訴人と称する。)代理人は民法第三百七十四条に所謂最後の二年分とは競売開始決定の日を基準として之よりさかのぼつて二年分の意に解すべきである。けだし抵当権は競売開始決定により俄然活動を開始しいままでの静的状態から動的活動状態に移動するのであり、従つて担保される債権の範囲もその時に遮断し確定せられるものと思われるからである。のみならず、反対に解し競売開始決定後に発生する利息ないし遅延損害金債権も他の債権者に優先して担保される効力があると解するとすれば例えば後順位抵当権者又は一般債権者から競売申立がなされた場合申立債権者に優先する抵当権の被担保債権が競売手続中に増加する場合があり得ることとなりそのため民事訴訟法第六百五十六条との関係で当初適法であつた競売手続が時の経過と共に不適法となる場合を認めねばならぬ結果となるからである。

(ロ)  控訴人(附帯被控訴人、以下単に控訴人と称する。)代理人は被控訴人の右主張は之を争う。尚、被控訴人は建物等(原判決の略語による。以下之に準ずる。)についてのみ抵当権を有し右物件の売得金についてのみ異議を申立て得るものである。而も右建物等は宅地の内名古屋市中区春日町七十五番地宅地百七十五坪七合九勺と一括して競売代金六百二十一万三千六百円にて競売されたものであるから被控訴人はその抵当権を有する建物等に対し競売を申立てその売得金に配当を申立て得るに止まり、被控訴人が権利を主張し得ない土地の売得金を含む本件建物等及宅地全部の売得金全部に異議を申立て得ない理である。のみならず、被控訴人が抵当権を有する建物等は右の如く被控訴人が抵当権を有しない名古屋市中区春日町七十五番宅地百七十五坪七合九勺と一括して六百二十一万三千六百円で競売されているのであるから被控訴人の抵当権を有する建物等の競売売得金は右物件の競売事件では之を確定することが出来ないから本件異議は排斥さるべきである。

(ハ)  被控訴代理人は右控訴人主張事実は之を争う。殊に、控訴人は従来本件宅地の競売価格は百五十五万五千二百円、建物等は四百九十五万円であることを自白していたのであるから控訴人の右主張は自白の撤回であり被控訴人は右自白の撤回に異議がある。乙第五号証ノ二は右宅地の内の一筆と建物等との競落人が同一人である為めに其の競売代価を合算しているのにすぎない。

(ニ)  控訴代理人は被控訴人の右主張は之を争う。仮に自白があつたとしてもそれは真実に反し且錯誤に出でたものであるから之を取消す。と各述べた。

(ホ)  立証として控訴代理人は乙第五号証の一、二を提出し被控訴代理人は右乙号各証の成立を認むと述べた。

理由

被控訴人主張の如く本件建物等に控訴人が元金九十万円につき一番、元金五百万円につき二番、被控訴人は元金三百万円につき三番の各抵当権、本件宅地に控訴人が右元金九十万円につき一番、元金五百万円につき二番の各抵当権を有していること、本件工場に控訴人が右元金五百万円につき一番、九十万円につき二番、訴外安宅産業株式会社が元金三百万円につき三番、元金二百万円につき四番の各抵当権を有していたこと、その後被控訴人主張の如く控訴人が工場に関する右一、二番の抵当権の順位を安宅産業株式会社に譲渡しその結果安宅産業株式会社は元金三百万円につき一番、元金二百万円につき二番、控訴人が元金五百万円につき三番、元金九十万円につき四番の抵当権を有することとなり被控訴人主張の如くその登記手続を了したこと、工場については安宅産業株式会社から、建物等及宅地については控訴人よりいずれも競売の申立がなされ前者は名古屋地方裁判所昭和二十八年(ケ)第七八号として後者は同庁同年(ケ)第七四号として競売手続が進められ右全物件が競売せられたこと、工場の競売代価が七百三十万円であり、宅地及建物等の競売代金合計が六百五十万五千二百円であること、右競売代金が工場のそれについては被控訴人主張の如く配当せられ宅地及建物等のそれについては被控訴人主張の如き配当表が作成せられたことは当事者間に争がなく本件物件の競落代金が宅地については百五十五万五千二百円、建物等については四百九十五万円であることについてはさきに控訴人が第一審以来之を自白していたにも拘らず当審の昭和三十三年三月十四日の口頭弁論期日において之を取消し建物等は宅地の内名古屋市中区春日町七十五番地宅地百七十五坪七合九勺と一括して代金六百二十一万三千六百円にて競売されたものであると主張するに至つたことは記録上明白である。控訴人は右自白は真実に反し且錯誤に出でたものであると主張し成立に争のない乙第五号証の一、二によれば建物等と控訴人主張の宅地の競売代価が六百二十一万三千六百円であることを認めることが出来るが、それが一括競売された競売代価なりや或は個々の不動産の競売代金の合計額なりやについては右乙五号証の一、二のみによつてはそのいずれとも即断し難く他に之を一括競売と認めるに足る証拠がない。従つて、建物等の競売代金が四百九十五万円であり宅地のそれは百五十五万五千二百円であるとする自白は尚維持せられているものと認めるの外なく建物等のみの競売代価は不明であるとの控訴人の主張は採用することが出来ない。ところで、右の如く共同抵当物件中の一部の物件に対する抵当権の順位の譲渡があつた場合には之がため共同抵当権者より後順位にある他の抵当権者に不利益を及ぼすことが出来ないこと当然である。本件の場合において若し抵当権の順位譲渡が行われず控訴人が依然工場について第一、二番の抵当権を有し他の共同抵当物件に先立つて競売されたとすれば工場についての後順位抵当権者なる安宅産業株式会社は民法第三百九十二条第二項により控訴人の債権額を共同抵当物件の価格に応じ按分した金額について他の共同抵当物件(本件の場合においては建物等及宅地)について控訴人に、代位して、従つて之等の物件に抵当権者があつたとしても控訴人の抵当権が上順位の抵当権であること前記の如くであるから之に優先して抵当権を行使し得るものといわねばならない。従つて本件建物等に前記の如く第三番抵当権を有している被控訴人は工場の抵当権が先づ実行せられ配当せられた場合においては右基準に従つて算出した建物等の分担額について丈は安宅産業株式会社の優先権を承認せざるを得ない立場にあつたものであり順位譲渡によつて安宅産業株式会社と同一地位についた控訴人に対しても右限度においてその優先権を承認せざるを得ないものといわねばならない。

而して控訴人の前記五百万円の債権は与信契約に基くものでありその与信契約は昭和二十六年十一月十七日解除せられたことは当事者間に争がなく、控訴人の五百万円の債権の抵当権が右与信契約に基く債務を担保する根抵当権であることは成立に争のない甲第二号証乙第四号証により之を認めることが出来る。而して、右の如く与信契約が解除せられて清算期が到来し根抵当債権が確定した以上根抵当権は普通の抵当権となり、又根抵当権の登記に利息及遅延損害金の約定の登記があればその率にて、若しその登記がなければ法定利率にて民法第三百七十四条に定める制限内にて遅延損害金につき抵当権を行うことが出来るものであり本件与信契約の解除により右五百万円の債務の弁済期が到来したことは成立に争のない乙第三号証によつて明である。又民法第三百七十四条に定める「二年分」とは配当日(配当期日、以下単に配当日という。)を基準として之よりさかのぼつて二年分の意に解すべきである。被控訴人は右基準日は競売開始決定の日であると主張し若し然らざれば民事訴訟法第六百五十六条との関係上当初適法であつた競売手続が時の経過と共に不適法となり取消されねばならない場合を生ずると主張する。然しながら、抵当権者が如何なる範囲において優先権を行い得るやは競売開始決定の日を基準とするよりも現実に配当する日を基準とするのが妥当と考えられる。のみならず、被控訴人主張の如く後順位抵当権者によつて競売申立がさなれる場合には競売法による競売については民事訴訟法第六百五十六条が準用されないから(大審院昭和六年十一月三十日被定民集一〇巻一一四三頁参照)被控訴人主張の如き事由を生ずる余地がなく又一般債権者によつて強制競売の申立がなされた場合には被控訴人主張の如き事由のために競売手続が取消されたとしてもやむを得ないものといわねばならない。従つて、被控訴人の右主張はその理由がない。そこでかかる見地に立つて以下本件昭和二十八年(ケ)第七四号事件の配当について判断する。

一、本件工場の配当日当日における控訴人の債権額

本件工場に対する競売に基く配当が昭和二十八年(ケ)第七八号事件として他の共同抵当物件に先立つてなされたことは当事者間に争がなくその配当日が昭和二十九年五月二十日であること安宅産業株式会社の債権がその全額につき弁済を受けたことは弁論の全趣旨によつて之を認めることが出来る。そこで控訴人の債権額を考えて見ると、

(イ)  元金五百万円の債権について。控訴人が昭和二十八年三月三十一日までの利息並損害金の支払を受けたことは当事者間に争がなく同年四月一日以降昭和二十九年五月二十日まで年六分の割合による損害金(控訴人主張の様に仮に遅延損害金の約定があつたとしても登記簿上(前記乙第四号証)にその記載がない以上商法所定の年六分の損害金として計算する。)三十四万千九十五円(円以下切捨。以下之に同じ。)であるから昭和二十九年五月二十日現在における元金及損害金合計は五百三十四万千九十五円となる。

(ロ)  九十万円の債権について。成立に争のない乙第四号証並弁論の全趣旨によればその約定利率は年七分五厘、遅延損害金は日歩四銭であること、利息並損害金の計算については六ケ月未満のものは一年三百六十五日として日割計算する旨の約定があつたこと、内金五十万円の弁済期が昭和二十七年十一月三十日残金四十万円の弁済期は昭和二十八年五月三十一日であることを認めることが出来る。そこで、昭和二十九年五月二十日からさかのぼつて二年分即ち昭和二十七年五月二十一日から昭和二十九年五月二十日までの利息並損害金の内昭和二十七年十一月三十日迄の分は既に支払済であつたことは当事者間争がないから同年十二月一日以降の分を計算すると次の通りとなる。

(1)  五十万円に対する昭和二十七年十二月一日以降昭和二十九年五月二十日まで日歩四銭の割合による損害金十万七千二百円

(2)  四十万円に対する昭和二十七年十二月一日から昭和二十八年五月三十一日まで年七分五厘の割合による利息一万五千円

(3)  四十万円に対する昭和二十八年六月一日から昭和二十九年五月二十日まで日歩四銭の割合による損害金五万六千六百四十円

右(1) (2) (3) に元金九十万円を加えると百七万八千八百四十円となる。更に右(イ)(ロ)を合計すると六百四十一万九千九百三十五円となり之が工場の配当日当日において若し順位譲渡がなかつたならば控訴人が優先配当を主張し得べき金額である。

二、右控訴人債権の内建物等の分担額

工場の競売代価が七百三十万円であることは前記の通りであり建物等及宅地の昭和二十九年五月二十日当時の競売代価が幾何なりや不明であるがその後約一年後に右物件の競売がなされたことは弁論の全趣旨により明であり、その競売代価が建物等は四百九十五万円宅地は百五十五万五千二百円であることは前記の通りであり当時不動産の価格に変動のなかつたことは顕著な事実であるから昭和二十九年五月二十日頃においても右金額にて競売されたものと推定することが出来る。(少くとも工場、宅地、建物等の価格の比例は右競売代価の比例と一致するものと推定して間違ない。)そこで、右競売代価に応じて前記控訴人の債権を右共同抵当物件に按分しその分担額を算出すると建物等の分担額は二百三十万千九百三十五円となる。

三、建物等及宅地の競売事件の共益費用は九万五千二百九十五円であることは当事者間に争がなく、之を建物等及宅地の競売代価に応じて按分して建物等の分担額を算出すると七万二千五百十二円となる。而して右七万二千五百十二円と前記二百三十万千九百三十五円の合計二百三十七万四千四百四十七円については被控訴人は優先権を主張されることを承認せざるを得ないものといわねばならない。そこで右金額を建物等の競売価格四百九十五万円から差引いた残額二百五十七万五千五百五十三円が被控訴人の配当を受け得べき金額というべきである。

四、そこで、前記控訴人の五百万円の債権については昭和二十八年(ケ)第七八号競売事件において百七万七千八百九十三円の弁済を受けたことは当事者間に争ないから前記五百万円の元金及損害金合計五百三十四万千九十五円から之を控除すると残額は四百二十六万三千二百二円となり昭和二十九年五月二十日まで損害金が完済せられたこととなる。そこで、右元金に対する昭和二十九年五月二十一日以降昭和二十八年(ケ)第七四号事件の配当日たること成立に争のない甲第四号証により認め得べき昭和三十年六月十四日まで年六分の割合による損害金を計算すると二十七万三千三百十二円となる。従つて、元金及損害金を合計すると四百五十三万六千五百十四円となる。又元金九十万円の分について昭和二十八年(ケ)第七四号事件の配当日たる前記昭和三十年六月十四日からさかのぼつて二年分の損害金を前記日歩四銭の割合で算出すると二十六万二千八百円となり之と元金を合計すると百十六万二千八百円となる。右百十六万二千八百円及四百五十三万六千五百十四円の合計額が控訴人が昭和二十八年(ケ)第七四号事件について其の弁済を主張し得べき金額であるが、配当額は宅地及建物等の競売代価合計六百五十万五千二百円から前記被控訴人配当額二百五十七万五千五百五十三円及共益費用九万五千二百九十五円合計二百六十七万八百四十八円を控除した残額三百八十三万四千三百五十二円となる。(尚宅地については後順位抵当権者がないからその競売価額の全額について控訴人は配当を受け得るわけである。)

以上の結論に従つて本件配当表を主文の通り更正すべきものである。控訴人は被控訴人は工場に関して次順位の抵当権を有せず、而も他に何等の権利関係をも有しないから本件の様な請求をなすべき適格を有しない旨を主張する。然しながら、被控訴人が本訴において配当表の更正を求めているのは被控訴人が抵当権を有していた物件即ち建物等の競落代金からの配当に限定せられているのであり被控訴人が抵当権を有しない物件については何等の請求をもしていないのであるから控訴人の主張はその理由がない。

その他当事者双方の主張中右見解に反する主張は結局当裁判所の採用しないところである。

以上の理由により控訴人の本件控訴、被控訴人の附帯控訴はいずれも右認定の限度において理由があるから原判決を変更すべきものとし民事訴訟法第三百八十六条第八十九条第九十六条を適用し主文の如く判決する。

(裁判長裁判官 県宏 裁判官 吉田彰 裁判官 奥村義雄)

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